第十四章 核心への道 — 裏切りと和解(暁晶の旅団と虚竜ヴェルド)

  ヴェルドが撤退した後、旅団は傷だらけで座り込んだ。人々の名は戻りつつあり、祭壇の光は安定しているように見えた。だがユイが写本の頁をめくると、そこに微かな注記があることに気づく――「核の核心は、物理と記憶の『折り重なり』にある。単独の強さは無意味」とだけ記されていた。

 旅団は次の方針を協議する。核そのものへ入るには、各地で行った名付けや再生の“集合”がなければならない。ユイは言う。

「核へ入る前に、もっと多くの声を集める必要がある。暁晶は共同体の輪郭に依存している。ここで孤立した行動をとれば、逆に虚は付け入る」

 ガロはレオンのことを思い出し、怒りと悲しみに身をひるがえす。だが彼の中には希望の片鱗もある――もしレオンが空輪会の中で何か変わったのなら、対話の余地もあるかもしれない。旅団は情報と時間を分配し、再び各地へ声を届けることにした。

 その折、トウヤは夜中に街灯の陰でひとり、誰かと密談しているところを見られた。仲間が駆け寄ると、そこにいたのはトウヤの“旧知”――空輪会の一員で、かつて彼を庇護していた男だった。短い口論のあと、トウヤは仲間に事の次第を話した。彼が密談したのは、自分の過去の贖罪のためであり、旧知はまだ彼を完全には見捨てていなかったのだという。

 だがその晩、村の鐘が鳴る。見張りが急報を持って走って来た。北の峠で、空輪会の残党が動員をかけ、村々を襲っているという。トウヤは顔を蒼白にして駆け出した。旧知は「俺のやり方で行く」と言い残し、影へ消える。彼の行為は裏切りか――それとも本当の助力か。答えはすぐにはわからない。

 峠の戦いは激烈を極めた。空輪会の残党はかつての組織の教義を拡大解釈し、村人に“楽な忘却”を吹き込んで強制的に受け入れさせようとしていた。ガロと仲間は村を守るために斧と詩と光を交差させ、トウヤは糸で道を閉ざし、ユイは防御の詠唱を繰り返す。旧知はその最中、陣中で涙を流しながら矢を放ち、空輪会の指揮者を討った。彼は自らを犠牲にして村を守ったのだ。

 戦いが終わると、トウヤは膝に座り込み、糸を握りしめた。旧知は息を引き取り、トウヤの腕の中で言葉を残す。

「……悪い。俺は…お前のためにだけ、正しかったのかもな」

 トウヤは嗚咽した。仲間たちは黙って彼を抱いた。裏切りと贖罪はいつも紙一重だ。レオンのこと、旧知のこと、彼らは皆「選択」を翻弄された者たちだった。旅団はその夜、それぞれの胸の痛みを分かち合い、より深い結束を得る。

0 件のコメント: