暁晶は完全に元へ戻ったわけではない。欠けた爪痕や代償は確かに残る。しかし、世界は再び輪郭を取り戻し、人々は選ぶことの重みと尊さを噛みしめた。虚竜ヴェルドは影として存在し続けるが、その存在はもはや単純な破壊者ではなく、忘却と対峙するための警鐘でもある。
物語は終わらない。人々が名を唱え続ける限り、黎光は新しい担い手たちに渡り、暁晶は小さな光を保ち続けるだろう。カイとその仲間たちの旅は、いつしか伝説となり、新しい語り部たちに織り込まれていく。だが語り継がれるのは単なる勝利譚ではない。忘却と選択、痛みと再生の話だ。
空は静かに暗くなり、星がまたたく。どこか遠くで、ヴェルドの咆哮が低く響く。それは終わりではなく、「これからも続く問いかけ」だ。
そして、桟橋の端で短剣を握るカイは小さく笑った。波は寄せては返し、彼らの物語もまた、寄せては返す人々の記憶の中で生き続ける。
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